電磁波回路数値解析のこの10年(工学部ニュース、2002年11月)

 電機メーカー勤務を経て本学に着任して以来、一貫してマイクロ波・ミリ波回路の数値解析に取り組んできました。解析手法としては差分時間領法(FDTD法、Finite-Difference Time-Domain Method)を用い、その応用範囲を拡張することを研究の主眼としています。
 これまで、ミリ波ICへの応用が期待されているポリイミド薄膜回路の解析、マイクロ波回路の半導体プラズマを利用した制御、高温超伝導体を用いたミリ波回路の解析、非直交格子を利用した任意形状のマイクロ波回路不連続部の解析などに関して、一定の成果をあげることができました。
 差分時間領域法では、マクスウェルの方程式を満足する時間的位置的関係に配置された空間の格子点に、すべての電磁界成分をわりあて、その格子網中における波動伝搬を計算します。複雑な回路構造を解析しようとすると、それはそのまま計算の大規模化につながり、研究対象の選定は、利用できるコンピュータの演算性能に大きな影響を受けます。
 研究開始当初の数年間に、いわゆる「ワークステーション」を三台導入しました。一台の価格は当時人気の某国産高級車と同じぐらいでした。購入時のメモリは64MB、ハードディスクは500MBで、どちらも増設するには十万円単位のお金。メモリなど今は子供のお小遣いでも買えるのに、です。予算は逼迫し、それ以外のたとえば事務作業用のパソコン、コピー機、什器の類に関しては、もうとことん我慢しました。「うい〜ん」と今にも壊れそうな泣き声をあげる安物のインクジェットプリンタを使って、学位論文の版下を徹夜で出力したときは、こちらまで泣きそうな思いをしたものです。
 その後、コンピュータの演算性能は大きく向上し、境界条件などを工夫して計算規模の縮小を図るといったテーマはあまり流行らない程にまでなりました。自作の「PC」を用いても実用的な速度で計算を行えます。何よりも驚くのはその「価格破壊」で、あのワークステーションを凌駕する演算性能をもつマシンがわずか十数万円で購入できます。
 件の国産高級車は、幾度かのモデルチェンジを重ねて確かに性能も向上したのでしょうが(社長も日本人ではなくなりました)、価格は安くなってはいないようです。一方、かつて勤務していた電機メーカーは、大幅な赤字とリストラが喧伝されています。
 元同僚の友の苦労を思うと複雑な気分です。


大阪大学工学部ニュース(第20号、2002年11月)原稿PDF